2011年3月19日土曜日

イノベーション研究センターから卒業生へ向けて

イノベーション研究センターから卒業生へのメッセージです。
以下はイノベーション研究センターのホームページから。

一橋大学イノベーション研究センターより

一橋大学・大学院を卒業する諸君へ


未曾有の災害に見舞われ、卒業式 が中止となっても、君たちの希望には何一つ輝きを失うものはない。日本はついに新たな出発点に立ったのだ。そして、その日本は君たちのイノベーティブでク リエーティブな発想を求めている。ただし、諸君のタスクは単純なる「復興」ではない。昔に戻るのではなく、現状を創造的に破壊して新たな日本を創りだすこ となのだ。在学中にイノベーションについて学んだ諸君に、わがイノベーション研究センターは熱いエールを送りたい。

瓦礫の山と化した東北の町並みを見る時、諸君には戦後焦土と化した東京の写真を思い浮かべて欲しい。あの敗戦の中にあって、日本の力強い復興を構想してい た男たちがいたのである。とくに、日本が誇るべき技術者経営者西山弥太郎(川崎製鉄初代社長)の発言を餞(はなむけ)として捧げたい。

西山は、一九五〇(昭和二五)年朝鮮動乱でやっと息を吹き返したばかりの日本で、千葉に最新鋭銑鋼一貫製鉄所建設を宣言する。日本にはまだ数多くの旧型高 炉が残存し、悲観論が漂っていた最中である。当時日銀総裁であり法王と怖れられた一万田尚人には、残念ながら西山の言う意味が分からなかった。一万田はこ の構想に「川鉄千葉にはペンペン草を生やしてみせる」と大反対したのである。しかし、西山には、「超重要課題は唯一つ設備の近代化だ。好調に酔い、自立 化、合理化を怠るものありとするならば、いずれ来る厳しい国際競争に敗れ落伍せねばならない」という厳しい危機意識があった。そして、「よしんば政府資金 がでずとも、私は万難を排して成功に導く自信と勇気を持っている。神経に病んでくよくよしていたら一歩も進めない。三日先の見通しは神ならぬ身の知るよし がない。機に臨めば亦新たな考えも出てくるというものだ」という強い意志があった。

いまの日本には技術も人材も何とか金もある。ただ欠落しているのは、日本人の決断力と「機に臨めば亦新たな考えも出てくる」という楽観的進取の精神なのである。

世界に冠たる「低炭素化社会」と「豊かさと人間性が両立する社会」に向けたイノベーション投資に躊躇してはならない。諸君は新しい日本を担う「キャプテン・オブ・イノベーション」なのである。




センター長 米倉誠一郎